脳内チップで直接機器操作に成功

脳内チップで直接機器操作に成功
脳に埋め込んだシリコンチップに細胞の活動を記録し、その記録をコンピュータに送信して変換することによって、外部デバイスを動かすことに成功した。(ロイター)
2006年07月13日 17時24分 更新
 新しい脳センサーのおかげで、ある身体麻痺患者はただそうしようと思うだけで、コンピュータのカーソルを動かしたり、電子メールを開いたり、ロボットデバイスを制御したりできるようになったという。科学者チームが7月12日に発表した。
科学者らは、このBrainGateと呼ばれる脳センサーは怪我や病気で身体が麻痺している人たちに新たな希望をもたらすと考えている。BrainGateセンサーは脳に電極を埋め込んで動作する。

 マサチューセッツ総合病院のリー・ホッホバーグ博士は取材に応じ、次のように語っている。「これは、身体麻痺患者を支援できる可能性を備えた、あるデバイス臨床試験の第1段階だ」

 ある25歳の四肢麻痺患者(男性)は3年前に、画面でカーソルを動かしたり、ロボットアームをコントロールしたりといったタスクをこなすことに成功したという。

 この男性は、マサチューセッツ州のCyberkinetics Neurotechnology Systemsが開発した脳と運動機能との連動システムをテストしている4人の患者のうちの1人。患者らはそれぞれ、脊髄損傷、筋ジストロフィー脳卒中、運動ニューロン疾患を患っている。

 Cyberkineticsの最高科学責任者を務める、ロードアイランドブラウン大学のジョン・ドノヒュー教授は次のように語っている。「これは、神経科学の新たな時代の始まりだ。脳から信号を取り出す能力が大きな前進を遂げている。われわれには脳に信号を送る能力はある。だが、脳から信号を取り出すのは非常に難しい。これは、画期的な出来事だ」

 科学者は、運動を司る脳内領域に100個の電極を持つ小さなシリコンチップを埋め込んだ。細胞の活動が記録され、コンピュータに送信され、そこで指令が変換され、患者は外部デバイスを動かしたり、制御したりできた。

 この研究結果を科学雑誌『Nature』に共同発表したホッホバーグ氏は次のように付け加えている。「脳のこの部分は運動皮質と呼ばれ、通常、信号を脊髄から手足に送り、運動を制御する。この患者の場合、脊髄損傷から何年も経っているにもかかわらず、依然としてこの部分を外部デバイスの制御に使えている」

 カナダはオンタリオ州クイーンズ大学に籍を置くスティーブン・スコット氏によれば、脳の動きを使ってカーソルを制御するという試みは今回が初めてではないが、この取り組みは技術を前進させているという。

 「この研究は、重度の障害を持つ患者が外部環境とコミュニケーションを図れるよう支援する上で、インプラントが有効な方法であることを示している」と同氏はNature誌でコメントしている。

 また別の研究では、スタンフォード大学の医療エンジニアリング学科の研究者らが、脳からの信号をより高速に処理してコンピュータや人工装具を制御する方法を説明している。

 スタンフォード大学神経外科のスティーブン・リュ―助教授は声明で次のように語っている。「われわれの研究は、性能的な観点からも、この種の人工装具が臨床的に有効であることを示すようになってきている」