抗うつ薬が脳細胞を増加させる仕組みが明らかに

抗うつ薬が脳細胞を増加させる仕組みが明らかに

  パロキセチン(商品名:パキシル)、fluoxetine (同:Prozac)、sertraline(同:Zoloft)などの抗うつ薬がうつ症状を消散させるのは、新しい脳細胞の成長を促す作用がある可能性が専門家らの間で長年考えられてきていた。今回、米コールドスプリングハーバー研究所(ニューヨーク州助教授のGrigori Enikolopov氏らの研究で、その仕組みが明らかになり、米国科学アカデミー発行の「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」オンライン版5月15日号に掲載された(編集部注=日本国内未承認薬は英文表記)。
研究チームは、特殊なマウスモデルに抗うつ薬Prozacを投与し、幹細胞(特定の細胞に分化する未分化細胞)がニューロン神経細胞)になる過程を追跡した。この過程にはいくつかの段階が含まれるが、「Prozacの標的となる細胞は、幹細胞から生まれる増殖前駆細胞と呼ばれる細胞である」ことが明らかになったという。Prozacは、この増殖前駆細胞に焦点を絞ってその数を増大させる。3〜4週間で、成熟したニューロンの数が増えていたという。

 パキシル、Prozac、Zoloftはいずれも、セロトニン再取り込み阻害(SSRI)薬というグループに属する抗うつ薬である。Prozacは、1987年に米国で販売が開始された最初のSSRI薬で、セロトニンを選択的に標的とし、細胞への再取り込みを阻害し、体がセロトニンを利用しやすくする。Prozacによりセロトニン濃度が増大することは20〜30年前からわかっていたが、なぜ効果が現れるまでに3〜4週間かかるのかが不明だった。「この期間は、幹細胞がニューロンになるのにかかる28〜30日という期間に相当する」とEnikolopov氏は指摘している。

 今回の研究結果は、SSRI抗うつ薬の働きに関するパズルの新たな1ピースとなると思われるが、これで完全に答えが出でたわけではない。「ニューロンの増加と、うつ症状の軽減の間に何が起こっているのかは、まだわかっていない」という。