頭使わないと進むど忘れ 阪大教授ら脳の仕組み解明

頭使わないと進むど忘れ 阪大教授ら脳の仕組み解明
ワープロばかり使っていたら、ある日、簡単な漢字が書けず、驚いた。そんな経験は誰でもある。一度覚えたことを、ずっと使わずにいたら思い出しにくくなる時の脳の変化の仕組みを、大阪大の狩野方伸(かのう・まさのぶ)教授(神経生理学)らの研究チームが突き止めた。まだ謎が多い記憶と忘却の関係を解く手がかりになりそうだ。27日発行の米科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載される。

 脳の神経細胞は、シナプスというつなぎ目を介して情報を受け渡ししている。この流れは一方通行で、「上流」の神経細胞の末端がグルタミン酸など、情報を伝達する物質を出し、「下流」の細胞が受け取ることで伝わっていく。

 狩野教授と金沢大、東京大、北海道大の合同研究チームは、神経細胞のつながりが単純なマウスの小脳で実験した。「下流」の細胞にあるグルタミン酸の受け口を特殊な薬剤でふさぎ、情報の流れを止めると、「上流」の細胞の末端部分が縮み、グルタミン酸の放出量も減った。

 このことから、情報が流れると、その都度「下流」の細胞から、「情報を受け取った」という着信確認メッセージが上流側の細胞に渡され、そのメッセージ信号によってシナプスの機能や形が保たれているらしいことが明らかになった。

 縮んだ細胞も、使用を再開してしばらくすると元に戻る。忘れた漢字も、何度か書けば再び書けるようになる現象に当てはまる。

 脳は、いつも使っていないと機能が衰えることは経験的に知られているが、シナプスの変化を明らかにしたのは初めて。

 東京大学医科学研究所の真鍋俊也教授(神経生理学)の話

 下流側をふさぐだけで、上流側の細胞の形態や機能が変わるというのは、これまで全く知られていない働きで大変驚いた。下流から上流へメッセージを運んでいる物質が突き止められれば、記憶を増強する薬の開発などの実用化につながるだろう。