1月から、徒歩で幡ヶ谷の自宅から30分程歩いて初台リハビリテーション病院に通っているわけだが、道中、不動通り商店街に入る私道じみた小道がある。実は、僕はここに生息するオレンジ色の猫に恋をしている。
 この猫と初めてこの小道で偶然出会ったのは、1月の半ば頃だったかと思う。随分寒い日で、撫でると奴のオレンジの毛皮が心地よかったのを覚えている。
 当時僕の麻痺は今よりずっと酷く、路上の猫をかがんで撫でるのは重労働だった。しかしそのちょっとしたひとときがたまらなく好きで、病院に行くときは行きも帰りもこの道を通ってこの猫を撫でていた。
 エサをやったことはない。途中何度か発作的にあげようかと思ったこともあったが、なんかなんとなくそうすべきではない気がして、あげたことがない。エサもあげないのに、僕がそこを通る頃に民家の奥などから這い出してくる。撫でると腹を出すが、あまりベタベタしたがらない。そんな感じが大好きだ。つかず離れず。

 この猫とのこんな邂逅も最近ぱたりと止んでいて、さては、とっつかまって三味線にでもされたのかしらと心配していたのだが、今日久しぶりに奴を見た。そして奴は僕が見たことのない女の子からエサをもらっていた。飼い主だろうか?オレンジの毛皮の猫は、箸を休めてこちらをじっと見つめていた。なぜだかわからないが僕はおかしくなってクスリと笑った。なんかすこし嬉しかったのだろう。