医療過誤とボヤッキー達

 病院には独り言をつぶやく人が多い。なかでも今同室のオッサンの独り言は陰にこもっていて、聞くに堪えない。見たところ40代といった年恰好(だがこの手の孤独な中年はおそろしく老けるのが早いので当てにはならないが)なにやらあそこが痛い、ココが痛いのと言ったことを一日中つぶやいている。妻帯はしていない様子、家族も誰も見舞いに訪れない。見捨てられたのだろう。
 ブツクサと独り言ばかり言うひとり者の中年の男ぐらい悲しくさまにならない生き物はこの世にいない。かく言う僕もそんなに堂々と彼を笑えたご身分ではないけれどね。
 かといって、僕が彼にやさしくしてやるかと言うとそれはまずない。それは僕の器じゃあないから。
 

 この前入院してきた山陰の人は、気の毒な人だった。彼の言葉を信じるなら、彼は今回の手術費用を捻出するために故郷のデンバタ(田畑)を売り払って上京してきたらしい、そんな彼に対して神様は随分意地悪だった、医療過誤があったらしいのである。 
 過誤の件で医者に噛み付く時以外はおそろしく無口な人だったので、もともと善良な一市民なのだろう。こんなことで慣れない主人公になってしまい舞い上がってしまっているといった風情だった。道徳的に危険な状態だ。
 被害者の魂は、よほど注意してないとたちまち甘やかされ腐敗してしまう。