502紳士録

 7月1日から僕が入院しているこの502号室は六人部屋だ。二十代と思しき若者四人と僕とジジイ一匹。若者一号はなにやら声も出ないほどに精神的にふさぎこんでいるらしく、理由が気になるところ。話しかけても蚊の鳴くような声しか帰ってこない。若者二号はヤンキー。僕と同日に手術したが、なにやらトラぶったらしく、今日に到るまで個室に行ったまま帰ってこない。元気だったころもそうとう頭がやられているらしく何を言ってもヘラヘラしていて薄気味悪かった。生まれつきだったらごめんなさい。若者三号は眼鏡の一般人。いつもカーテンを閉ざしているので交流なし。若者四号は生まれつき障害をかかえているが実に明るい好青年。この部屋で唯一仲良くしている。しかしその彼も明後日には転院して行ってしまう。問題は残りの一匹のジジイだ。僕も入院生活中いろいろな嫌な奴を見てきたが、彼は文句なしにチャンピオンだ。もう、ねたむ嫉む僻む毒づくゴネル。地獄の底の便所のヘリにはこんな生き物もいるかもしれない、というレベルで不快な生き物だ。どうやら彼は病院の医療ミスで首の筋肉の筋をいくつか誤って切断されたようで、首がダランとしてあがらなくなっており。(しかしその様は陰険な彼に良く似合っている)そのことをダシに横柄な態度を取っているようだ。もう10分に一回ぐらいの頻度でナースコールを連打している。今朝なんか、ご飯をちゃんと食べたところを見てくれ!だなんて理由で呼びつけていた。呆れてものが言えない。