シロクマの旅

上野動物園のスリムなシロクマ
 悲しいホッキョクグマの生活を想像してみた。見渡す限り白銀の世界。その中に彼の天敵は全く存在しない。毎日毎日真っ白な世界を歩きまわりエサを探す。あまり刺激的とは言えないそんな退屈な毎日。しかしある日彼に悲劇が訪れる。彼の立っていた氷塊が突如流氷となって陸を離れるのだ。徐々に離れていく陸地。今海に飛び込み泳ぎだせばたぶんまだ間に合う。しかしシロクマは、どうもその気にならない。今まで自分のいた場所が、それほど魅力的だとはどうしても思えないのだ。そんなことをボンヤリ考えているうちに、みるみる陸地は遠ざかり、今はもう見渡す限り海。
 大海原に氷山がひとかけら、その上には大きなシロクマが一頭。氷山の上は動物園のステージよりずっと狭い。エサとてまず手に入らないだろう。もといた陸地も今ではどちらの方向にあったかさえ思い出せない。徐々に迫り来る飢えと孤独。氷山はどこへ流れていくのだろうか?運良くどこかエサや仲間のたくさん居る陸地に流れ着くかもしれないし、あるいはこのまま漂流し続け、ついには飢えて果てるかもしれない。
 大海原に氷山がひとかけら、その上には大きなシロクマが一頭。しかしシロクマはこんなのも悪くないな、と考えて始めている。