福音

 主治医のひとり、久保田先生から改めて手術の説明を受ける。ちとまだ細かい説明は難しいが、簡単に言うと覚醒手術ではなくなる代わりに、手術の前段階が精緻になるのでそちらでカバーしようという方針のようなのだ。なるほど納得。後から考えれば丸山先生もその点(前調査法の変更)に言及はしていた。しかし、前段階調査を精緻なものにするから→覚醒手術をしなくても良い結果が期待できる という因果では語っていなかった用に思う。第一彼の話し方は速すぎる。こちとらコッテコテの私立文系なもんで、完全な門外漢なのだからもう少しゆっくり語ってくれなくては困まるのだ。
 ついでに言っておくと、この丸山先生、患者をタイプごとに上手に「さばく」ことに長けて、それがあまり愉快ではない。僕を「小うるさいが、おだてておけばいい気になってさっさと納得するタイプ」にでも分類したんじゃないかという疑いがある。あまり愉快なものではない。
 しかし、まあとにかく、光は見えてきた。

誰かに説明することによる精神の安定効果

 昨日やってきたIさんは現在この部屋の最年長。彼にも腫瘍の疑いがあるとのこと。脳腫瘍仲間だ。Iさんは山梨で造園業を営んでいたという物静かで朴訥なかたで、僕の好みなタイプだ。物静かでめったに喋らないが、たまに素敵な笑顔をする。へつらう様な笑い方は決してしない。彼の奥さんはいかにも人のいい、そそっかしそうで心配性な人だ。この奥さんに僕が今まで学んできた腫瘍の話をする。この奥さんがまた、気の毒になるぐらいの心配性なので、いろいろと話をして励ましているうちに自分が励まされてきた。不思議なもんだがそういうものなのかもしれない。第一、今は何でもいいから喋っていたい。